数年前の私は、「陸上選手のように、馬もムキムキなのはスプリンター向きと言われているけど、キタサンブラックは大きい体で長距離強かったな…」とか首をひねっていた。
けれど、あれから勉強して、少しは分かってきましたよ。(もちろん、福永先生に及ぶこっちゃない)
先生、もとい福永祐一調教師が言うように、短距離馬は脚や胴体が短くて、脚の回転数が早い、いわゆるピッチ走法の馬が向いている。逆に言うと、脚の長いスラっとしたような馬は、短距離向きじゃない。
ウマ娘化された名馬で言うと、ヒシアケボノとキタサンブラックは、「体が大きい」「馬体重がすごい」といっても、ややタイプが違った。
ヒシアケボノは胸や前肢に、岩のようにゴツゴツとした筋肉があって、それが馬体重につながっていたんだろうけど、キタサンブラックは、脚から胴体、首まで長く、全体が大きい。
筋肉は立派だが、均整の取れた馬体で、「かっこよくて美しい」「グッドルッキングホース」などと評判になった。
キタサンブラックが入った清水久詞厩舎の関係者は、最初キタサンのことを、「大きいけれど全体に細く、きゃしゃな馬だと思った」そうだ。
調教ではストライドの大きな走りで、逆に言えば器用さは無いように見えたので、関係者は「広いコースがいいと思った」「中距離から使った方がいいんじゃないかな。血統が短距離だからといって、この子にわざわざ忙しい競馬を覚えさせる必要があるのかな」という見解でまとまった。(江面弘也「名馬を読む 3」の第5章、244~246ページ)
牝馬で言うと、ウオッカが平均500キロ超えの大型馬でありつつ、非常にストライドの大きい走り方が特徴で、そのせいか広々とした東京競馬場では強かったが、それ以外で一歩ダイワスカーレットに及ばなかった。
グリーングラス、スーパークリーク…。500キロ超の巨漢だった昔の名ステイヤーも、脚が長くて、筋肉というより全体が大きかった。
特にグリーングラスは、コーナーワークが不器用なうえ、脚部不安も抱えていて、難題が多かった。そのため、馬群にもまれない逃げ・先行でラチ沿いを走って、持ち前のスタミナで押し切るのが勝ちパターンになった。(「名馬を読む 2」の「第2章11 グリーングラス」)
※グリーングラスが最初に勝った大レース・菊花賞のビデオ、または成績表の通過順位等を見ればわかるけれど、昔から逃げ・先行馬だったわけではない。
もちろん、例外はある。
キタサンブラックの母父・サクラバクシンオーがそれで、筋肉ムキムキでも脚の回転数が多いわけでもなく、主戦騎手だった小島太氏は、キタサンブラックのことを「デビュー戦の時に一生懸命見たよ。(略)横から見た感じが似ている」と語っていた。(「名馬を読む 3」の「第4章19」、185~186ページ)
バクシンオーは5歳(旧6歳)の時、毎日王冠で4着に入っていて、つまり最も強かった現役晩年は、距離の壁も極端なものではなかった。
ただ、スプリント戦の方が断然強かったのは揺るがぬ事実。なぜあんなに短距離向きだったか…、謎が多い。