731部隊については、ゆうさんの「南京事件 - 日中戦争 小さな資料集」が私よりはるかに詳しく調べられているのだが、そこでは触れられてないことについて、落ち葉拾いで記す。
生体実験ねつ造論でよくあるのが、「731部隊を有名にした森村誠一「悪魔の飽食」は嘘」というものだ。
「悪魔の飽食」は、1981年に光文社から出版されてベストセラーになったが、写真の誤用など、いくつかの間違いを指摘された。そのためいったん絶版回収され、間違いを訂正した新版が、83年に角川書店から刊行されている。
ねつ造論者が言うように、ウソだらけのひどい本だったとしたら、ちょっと訂正したくらいで再発行できるわけがない。(中には「絶版にされたまま」と勘違いしている人もいたが、普通にアマゾンで読める。)
というわけで、「悪魔の飽食」全否定論は、破綻せざるをえない。
補足。「悪魔の飽食」は、教育史料出版会「歴史の事実をどう認定しどう教えるか」で、歴史学者の松村高夫氏が、731部隊研究の先駆けとして評価しています。秦郁彦氏は批判していましたが、専門家から見て間違った著作とは限らないようです。
保守派の歴史学者・秦郁彦氏が、生体実験の存在について疑っていたことを挙げる人もいた。ネットのまとめ程度はソースにできなくても、歴史学者が否定していたのなら、無視できない価値がある。
しかし、先の記事で書いた教科書裁判で、秦郁彦氏は文部省側の証人として出廷していた。地裁判決、高裁判決では家永氏側が破れたが、最終的には97年の最高裁判決で、「生体実験は歴史的事実」と認められている。
(教育史料出版会「歴史の事実をどう認定しどう教えるか」の17~20ページ。同書で松村高夫氏は、秦氏が文部省の検定意見よりも生体実験について疑っていることを、厳しく批判している。)
もちろん、裁判には間違った判決もあるわけで、裁判がすべてではない。しかし、ゆうさんのサイトによると、「(中川八洋氏を例外として)「731部隊」について論壇で「否定論」が聞かれることは、全くと言っていいほどありません。」という。秦郁彦氏も、裁判の敗北以降は、生体実験の否定をあきらめたようなのだ。