馬と鹿と野と郎

「世人は欺かれることを欲す」(ペトロニウス)

最低賃金の引き上げについては、すでに機が熟している。

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 アトキンソン氏の提言。(1)企業数の削減。(2)最低賃金の段階的引き上げ。(3)女性の活躍推進。(あくまで紙屋高雪氏のまとめだが。)
 まぁ、(3)の配偶者控除の廃止は、言うまでもないね。これは、自民党に代わりとなるような包括的福祉政策がないこと、あとは支持基盤である保守的な中高年への配慮、くらいだろう。自民党が「他よりよさそう」なんて生暖かく支持されている間に、端的に時代遅れで意味のない制度が温存されている。
 最低賃金引き上げについて、韓国経済が反面教師にされるのは、安倍政権支持者の実態を物語る。「経済左派ではありません、右派です」と白状しているのだ。
 韓国の保守系マスコミが、「文政権の最低賃金引き上げは失敗だった」と強調しすぎているんだが、いつの間にか、嫌韓ネトウヨがそれに洗脳されているという皮肉な話。ネット右翼は、平均的日本人より圧倒的に中央日報とか読んでいるからな。
 経済は難しくてわからないことが多いけれど、アトキンソン氏は生産性を上げることについて、楽観的な気もする。賃上げすれば、経営者は真剣に効率化を考えるようになるって、本当? とにかく従業員をこき使って、無理やり利益を上げようという、工夫のないブラック企業が増えそうな気もする。
 ただし、人口減少パラダイムというのは、確かに重要。短期的にはブラック企業が栄えても、求人はほかにいくらでもあるので、無能な経営者やブラック企業は人手不足で首が締まっていくだろう。
 労働市場というのは、「悪かったらやめる、良かったら続ける」と、サラサラ水が流れるように効率化するものではない。長時間のサービス残業等について、「早く帰れる雰囲気じゃなかった」といって心身を悪くした人もいる。経験的常識として、仕事というのは人間臭い感情や慣行に支配される。
 そういった懸念はあるが、政策的な賃上げについて、現在条件は十分すぎるほどそろっている。政権自ら「歴史的水準」と誇る、低い失業率。あまりに失業率が下がると、賃金が上がる、インフレが進んで困るというのが、戦後先進諸国が経験したことだが、むしろ今の日本は、「インフレが進まず物価上昇率2%が達成できない」という摩訶不思議なことになっている。
 これは反安倍派や私の難癖ではなく、クルーグマン氏自身がはっきりと、「不思議だ」と語っているのだ。勝手な理屈をつけて納得した気になっているのは、安倍政権支持者だけ。

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 理由はいくつか想像できる。ケインズがすでに、賃金というのは景気に合わせて柔軟に上下するのではなく、労働組合の力など、社会的なファクターに左右されるとみていた。そしてケインズは、成熟した民主主義社会なら、労組の力が強いので、好況時の賃上げも自然に進むとみていた。しかし現在では、周知の通り労組の組織率が下がり、労働者の団結力が弱っている。

 それに加えて、いわゆる「デフレ・マインド」というやつで、労働者が長いデフレ不況のトラウマを抱え、「仕事があるだけまし」とあっさり期待の水準を切り下げているのかもしれない。
 それは、政治に生活の不満をぶつけるよりも、「マシだから」と消極的なあきらめで安倍内閣を支持し続ける現状とも重なる。それこそが地獄へ舗装された道かもしれない。何しろ人口減少が進む中では、「今、マシ」程度だったら「後でさらに悪くなる」のだ。「老後2000万円必要」問題は、その一端に過ぎない。
 実のところ、安倍政権支持者こそが、現状で満足せず、アベノミクス成功のために賃上げを主張すべきなのだ。

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