馬と鹿と

「世人は欺かれることを欲す」(ペトロニウス)

NHKの朝ドラ「エール」。数回まとめて感想。

 史実との違い。実際のところ、モデルとなった作曲家・古関裕而が慰問に行ったのは、中国戦線だったという。
 なぜ、ビルマに変更されたのだろうか。へたに中国戦線を描いて、中国を刺激したくなかったとか?(最近中国から敏感すぎるクレームが多い。)

 
 昨日、最後に「終戦」の日を迎えたので、今日はようやく明るい雰囲気になるのかな、と思ったら変わらず重たかった。
 古山裕一(主人公)は、「歌が憎い」というまでに闇落ち。
 昨日の回では、「いざ来いニミッツマッカーサー」に歌詞が改変されたという、古関裕而を取り上げた歴史番組でも出てきたエピソードをやってた。
 しかし、このとき裕一はもう、心の死んだ虚脱状態。藤堂先生が死んだとき、めちゃくちゃ泣き叫んでいた姿とのギャップで痛々しい。
 余談だが、「ニミッツマッカーサー」のケッサクぶりは、この後無条件降伏し、敵愾心をあおっていたはずのマッカーサーに、平伏せざるをえなかったことだろう。
 例えば当時、ラフでリラックスしたポーズのマッカーサーの横で、新皇帝を迎えるかのように直立不動した昭和天皇とのツーショットは、国民に衝撃を与えたらしい。

 
 今朝の話では、NHK職員の、「この先どうなるか誰にもわからん」というニヒルなつぶやきが。この手の平かえしっぷり。
 かつて、戦意高揚、あれだけ戦争をあおっておいて、「NHKだから嘘をつかない」というセリフは、高度な自虐ネタだね…。ただ、「先が分らない」というのはリアルな感覚だったろうなぁ。

メモ。結婚すると法的には…。

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 ごめん、入れ忘れてた参考文献や、読み忘れていた本がまだあった。まぁ余談というか蛇足なので、まとめには入れない。

 
 結婚した男女の法的関係というのは、民法に定められている。

 一般向けのわかりやすい本として、たとえば木山泰嗣「弁護士が教える分かりやすい「民法」の授業」は、
「2日目(第2部)」で具体的な事例(話そのものは著者のフィクション)を基に、民法を解説している。(著者が前書きでいうように、2日目だけでも読める。)
 で、2日目の「12時限」は、「奥さんが勝手に買ってきた商品の代金は?」という見出しで、夫婦関係の法律を解説する。
 短いけれど、これだけでも法的に結婚するということが、「紙切れ一枚届けるだけ」「姓が同じになるだけ」というのんきなものでないことが分かる。

 
 一例として、民法768条1項には、離婚する際には、その夫婦で結婚生活中に築いた財産を分けると定められている。
 当事者間の協議で決着がつかない場合、家庭裁判所に対して財産の処分を請求することができる(2項)。

 
 もちろんこの法律は、同性カップルには適用されない。一部自治体で始まっている同性パートナーシップ制度は、「結婚」ではないが、法的に夫婦と同じ扱いをすることで、このような法の穴を埋めている。
 (ただし、不倫やDVなど一方の問題行動を理由にした離婚、その理由が裁判所に認められて一方が同意してなくても離婚した場合などには、適用されないかもしれない。 うーん、このへんは専門家に聞いてください。日本の法律の中でも、とりわけ民法は、判例によって積み重ねられた法解釈が大きいらしいので、素人が条文だけ読んでも分からない。)

 

 

ホネットの「承認をめぐる闘争」論と、マジョリティーの現在。まとめ。※追記あり。

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 (追記部分)

 入れ忘れていたが、先駆的な映像メディア論として有名な、ベンヤミンの「複製技術時代の芸術作品」も重要。
 特に次のくだりは、今も示唆に富む。「ファシズムは大衆に、彼ら自身を表現する機会を(彼らにふさわしい権利を、では決してなく)与えることが、自分の利益になると考える。大衆が所有関係を変革する“権利”を持っているのに対し、ファシズムは所有関係を温存しつつ、大衆に一つの“表現”を認めようとする。」(ヴァルターベンヤミンベンヤミン・コレクション 1」、626~627ページ。傍点を”に変更

 ベンヤミンマルクスから強い影響を受けており、数々の論文で近代資本主義(モデルネ)からの解放を説いている。しかし、解放されるべきプロレタリア大衆が、ファシズムやナチズムの方に引き付けられ、ユダヤ系ドイツ人であったベンヤミンは、国外に亡命を余儀なくされた。

 「複製技術時代の芸術作品」において、初めに引用された作家ド・デュラス夫人の「真とは彼にできること。偽とは彼が望むこと」という言葉は、今でもリベラル・左翼の苦悩を表現している。

 リベラルや左翼は「格差を生む過剰な競走が悪い」とか、「男性中心の価値観にとらわれてはいけない」といって、それが社会的弱者にできる「真」だと思っているのだが、「彼が望むこと」は、男らしい価値観のまま順調に出世することとか、外国人労働者を排斥することかもしれない。

 

 

どうしてこうも毒を盛るのか…。大河ドラマ「麒麟がくる」第26回の感想。(ほのぼの)

 前回の時も思ったけど、染谷将太演じる信長のヒゲ、にあわね~。
 何しろ有名な肖像画がヒゲ生やしているし、また、視聴者向けに「あれ(道三の死と桶狭間の勝利)から年月が経ちましたよ」という記号になる。

 それはわかるけど、似合わない。

 
 「麒麟がくる」世界の住人は、どうしてこうも毒を盛るのか…。
 そして、順に権力者(一応)の中年男性、鳥(罪のない動物)、弟、幼い子どもということで、かわいそう度がアップしていってる。そんなん上げなくていいから…(ドン引き)。

歴史解説。朝倉義景は一族(家臣)をまとめられてない、というより、信長が異常。

 俺っちがドヤ顔で語るのもなんだけど、「朝倉義景(様)は一族(または家臣)をまとめきれてない様子」っていっても、この時代はそれが普通。この前「英雄たちの選択」で、呉座勇一氏がスパッと言ったように、「信長が異常」に尽きる。

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 中世の武士というのは、もともと都から地方へ出向した役人(国司)が組織した兵士や、朝廷につかえる地方出身の豪族が母体。偉いのはあくまで朝廷だが、12世紀初頭から国司の地方赴任が形骸化し、武士が地方の実力者になった。(五味文彦「武士の時代」、3~8ページ。)
 鎌倉時代の蒙古襲来(元寇)を描いた歴史漫画、たかぎ七彦「アンゴルモア」では、主人公が「一所懸命」を強調している。これは中世の武士たちが、自分の所有地(一所)を命懸けで守ったことに由来する四字熟語。

 (派生形として「一生懸命」がある。現代のわれわれには、「一所」より「一生」の方が分かりやすいが、本来は誤用らしい。)

 
 戦国時代の大名も、基本的には地方の武士が、外敵を警戒する中でより大きな勢力単位として結束しているわけで、まず自分の土地を守ることが大事。
 ところが信長の場合、耕地の生産力など土地の価値を算定する独立した部署を設けて、武士が直接年貢を取り立てることを禁じた。さらに、家臣の所領を頻繁に転封(配置替え。たぶん、サラリーマンに転勤を命じるような感覚でやってる)したりして、土地との結びつきを弱めた。
 こうなると武士は、自分の領地を大事にするよりも、人事権を握る信長に忠誠を示すことが重要になり、信長に対する功績競争が始まった。
 信長がしばしば「独裁者」としてふるまったのは、彼の個人的な性格だけでなく、それを可能にするシステムを作ったからだった。

 (ただ現在では、信長だけでなく、一部の有力大名も似たようなシステムを構築していた、という研究が出ている。)

 
 参考。
 前にも挙げた、藤田達生氏の信長本。また、信長・秀吉・家康によって完成された中央集権体制を簡潔にまとめたものとして、アンドルー・ゴードンの通史「日本の200年 上」。
 武士たちが武勇を誇っていた戦乱の時代から、行政官僚へと人材転換していく節目を描いた歴史漫画、岩明均「雪の峠」(短編なので、別の短編「剣の舞」とで一冊)もあげておきたい。
 
 余談として、戦国大名が把握に努めた土地の価値は、貫文という銭の単位で記録されていた。これは銅銭の普及という時代背景が大きい。
 室町時代に中国と正式な国交を回復して活発になった勘合貿易日明貿易)は、国内にも大量の中国製銅銭を流通させ、日本の商業経済が発展した。(村井章介「分裂から天下統一へ」、第1章の2「戦国大名と分国法」)
 数字で測れる「カネ」の力が大きくなれば、土地だけでなく、すべてをカネに置き換え可能になる。これは私の想像だけれど、武士が茶器といった高価な美術品に関心を高めていたのも、貨幣および商業経済の発展と関係するだろう。

 

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雪の峠・剣の舞 (KCデラックス)

雪の峠・剣の舞 (KCデラックス)

  • 作者:岩明 均
  • 発売日: 2001/03/21
  • メディア: コミック
 

 

 

 

 

武士の時代―日本の歴史〈4〉 (岩波ジュニア新書)
 

 

 

 

岩波が大和朝廷を再評価した本。

 岩波書店といえば左翼。それは間違いないけれど、岩波にはアカデミズムの成果を世に送り出すという社会的使命もあり、狭い「左翼」のイメージに収まらないユニークな本だってある。

 岩波新書の歴史シリーズでも、たとえば「日本古代史4」の吉川真司「飛鳥の都」では、近年流行の「聖徳太子の業績や、大化の改新は(日本書紀の)作り話」という見解に抗して、大和朝廷を再評価していた。
 各執筆者の個性が出すぎているので、初心者向けではないかもしれないが、歴史好きは食わず嫌いせずに読んでほしい。

 

飛鳥の都〈シリーズ 日本古代史 3〉 (岩波新書)

飛鳥の都〈シリーズ 日本古代史 3〉 (岩波新書)

  • 作者:吉川 真司
  • 発売日: 2011/04/21
  • メディア: 新書
 

 

 

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