馬と鹿と野と郎

「世人は欺かれることを欲す」(ペトロニウス)

気になる本。宮川裕章「フランス現代史 隠された記憶」

 

  中公新書にも「フランス現代史」という本があるけれど、それは第二次大戦後の歴史で、ヴィシー時代は対象外になっている。
 アマゾンのカスタマーレビューには、「これまでの研究蓄積に比べ、踏み込みが足りない」という旨の批判もある。けれど、パクストンのヴィシー政権研究が絶版で、それ以外にも平野千果子「フランス植民地主義歴史認識」といった本があ然とする値段の中、このテーマが新書で読めるという点で、すでに価値がある。
 平野本と違って電子版があるというのも、ソースとして確かめやすくていい。
https://www.amazon.co.jp/gp/customer-reviews/RMJMZC6VP1VXL/ref=cm_cr_dp_d_rvw_ttl?ie=UTF8&ASIN=4480069801

「中国産のゲームはちょっと」? 中国嫌いの誤解を解いてあげる☆

 先月9月に日本配信が始まって、瞬く間に話題が広がっている「アズールレーン」。「世界の艦船を擬人化」という、「艦これ」のような(というか、まんま)テーマのSTG(シューティング)ゲームだ。
 ゲームとして面白いかどうかはさておき、「中国産のゲームをやるのはなぁ・・・」と「中国が嫌いだから」気が進まない保守的オタクもいるようだ。そこで、東アジア物知り兄貴の私が、中国にまつわる誤解を解いてしんぜよう。
 まず中国といえば、「反日」だ。かつては石橋湛山とか、今でも半藤一利氏とか、年配の人には「まだ若い国だから」「発展途上国だから」と大目に見る人もいるが、中国も今や世界第2位の経済大国である。かつて中国共産党は、「人民が卵と肉を食べられること」を目標にしていたが、それを毎日食べているような中国の若者が、「第二次世界大戦で日本は~」と言い続けることに、違和感を抱く人は多かろう。
 だがそもそも、中国は国土が広く、大小50の民族が存在し、価値観もいろいろと違う。反日デモや暴動に「計1万人が参加していた」と報道されると、すごい人数に見えるが、人口13億の中国では、日本でいえば「安倍はヒトラー」という横断幕で国会前を練り歩いている人くらいわずかな数だ。
 「反日」と並んで、偏見が強いのが「パクリ」だ。中国は日本の漫画・アニメ、サブカルチャーを丸パクリしている…、というのが、オタクの皮膚感覚として、反日以上に許せないだろう。
 だが、待ってほしい。今では中国でも、正式なライセンスを取得した日本漫画などの翻訳が普及し、中国のオタクたちも粗悪なパクリに厳しくなった。象徴的なのが、福島香織「本当は日本が大好きな中国人」(朝日新書)に紹介されている郭敬明をめぐる騒動だ。(「朝日の本じゃないか」と思うなかれ。作者は元産経新聞の記者だ。)
 郭敬明は中国の若手人気作家だが、たびたび日本作品のパクリ疑惑が指摘され、要するに「表面的に日本文化をパクッて人気」の三文文士として、強烈なアンチの中国人も多い。

 中国では、海賊版の時代から「銀河英雄伝説」に熱烈なファンが多かったが、2006年に正規版が出た。中国の出版社は当初、正規版の序文を郭敬明に書かせようとしたのだが、この情報が銀英伝ファンの間に伝わると、猛反発が起こって、撤回された。また、表紙を担当するはずだった郭敬明プロダクションのお抱えデザイナーは、謝罪する事態にまで発展する。(第3章)
 周知のとおり、中国で政治は独裁が続いているが、経済は自由化が進んでいる。「反日」を国単位、国民単位でみるのではなく、個々の企業や人を見るべきだ。一部の人間を取り上げて、国単位の責任を問うべきではない。
 君はここまで言われても、「艦これ」をやっていながら、「アズールレーン」ができないのか?

 

 

本当は日本が大好きな中国人 (朝日新書)

本当は日本が大好きな中国人 (朝日新書)

 

 

amazonの無料サンプルで面白いやつ

 キンドル用の端末は値が張るけど、パソコンやスマホで読むだけなら、無料アプリがある。

 割安で、読めるまでのタイム・ラグがない電子書籍を調べていたら、アマゾンから無料サンプルをダウンロードできることに気づいた。(ネット強者からすれば、今さらだろうな。俺はデジタル音痴だから)
 無料といっても、目次と「はじめに」くらいしか読めないが、それでも本によっては使えるサービス。
 まず中公クラシックス。翻訳と解説がよいことで定評のある「世界の名著」を底本に、安い価格でリニューアルしたシリーズ。解説が文庫のように巻末ではなく、巻頭に置かれている。たいてい名著の本文は、古めかしい文体でハードルが高いので、解説から読むのがいい。そして無料サンプルが序文を収録しているということは、だいたい中公クラシックスの解説も読めるはず。
 次におすすめなのが、セルバンテスドン・キホーテ」。頭のおかしくなった男が、風車を怪物だと思って挑むエピソードは有名だね。岩波文庫で前編・後編合わせて全6巻という長さ(「戦争と平和」や「レ・ミゼラブル」より長い!)なので、読みだすのは覚悟がいる。が、読んだことのある弟Aによれば、「序文が一番面白かった」そうだ。確かに面白いんだ、これが。

 どんな序文を書こうか悩んでいる作者セルバンテスのもとに、友人がやってきて…、という出だし。あとは実際にどうぞ。

 

ドン・キホーテ〈前篇1〉 (岩波文庫)

ドン・キホーテ〈前篇1〉 (岩波文庫)

 

 

それでも楽園か

togetter.com

 もはや定番ネタ、トゥギャッターの定点観測できる風景になった「働きすぎ」ネタ。

 マイケル・ブース「限りなく完璧に近い人々」によると、充実した福祉で有名なデンマークでも年間平均労働時間は短く、「海岸沿いで行われるパーティーに出席する準備のため、早退します」といえば、さっさと帰れるらしい。労働人口の20パーセント以上が、手厚い失業手当(最長2年間)や障害手当で働かずに生活している。
 ブース本は、よくある北欧礼賛報道ではなく、それに水を差して、中和するために書かれた本だ。たとえば北欧諸国の影の面として、逸脱を許さない全体主義的気質、社会保障を維持するため異常に税金が高い、などあげられている。

 それでも日本人から見れば、楽園かもしれない。なにしろ日本は会社が全体主義的で、借金返済のために恩恵なく税金も高くなろうとしているのに、過労死が後を絶たない。
 実をいうと、マイケル・ブースの同書をまだ買ったわけではない。アマゾンで電子版の無料サンプルを読んだだけだ。無料サンプルのわずかな冒頭部分を見ただけで、もう日本との違いに思いをはせた。

 

限りなく完璧に近い人々 なぜ北欧の暮らしは世界一幸せなのか? (角川書店単行本)
 

 

アニメ「魔法陣グルグル」第13話 感想

www.ganganonline.com

 (リンク先でテレビアニメと連動したリバイバル連載もやってます。)

 イエタ村のエピソードは、インターミッション的でストーリー上の必然性がないけれど、結構好きだ。アニメではカットされたが、「いっぺんにぜんぶ見ちゃったらつまんないもの」「ハズレでもいいの」というククリの独白が好き。今になってみると、前に引用した、「赤毛のアン」も連想する。
 これが魔物に世界を脅かされていて、苦しむ民衆が切々と描かれている作品ならば、なにチンタラやってんだ、と思ってしまうところだが、グルグルの牧歌的な世界観ならば、本質的なことが浮かび上がっている。

 つまり、世のため人のため「魔王を倒す」という目標に突き進むことではなく、今やっている「旅」「冒険」が楽しいんだ、ということ。
 (それだけに、最後のギリとの戦いは、作者がいろいろ考えた挙句どシンプルなラスボスに落ち着いたんだろうな・・・、という試行錯誤を感じる。)
 ファンタジープラスコメディーというだけなら、当時からいろいろあったが、それらに比べて今再アニメ化されるほど「グルグル」が残る作品になったのは、この「世界に対するいとおしさ」のような目線ではなかろうか。

 「赤毛のアン」関連

曲がり角の先に - 犬と沼の日記