馬と鹿と野と郎

「世人は欺かれることを欲す」(ペトロニウス)

条約の枠組みに縛られない共産党。筋を通しているだけなんだ。

 「池上彰の現代史を歩く」今回はアメリカ。

 アメリカ大陸に連行された黒人奴隷から、公民権運動の歴史など。おさらい。キング牧師の運動は、一人の黒人女性から始まった。当時、バスや食堂には「白人席」と「黒人席(有色人種席)」があり、しかも白人席が埋まっていたら、黒人は席を立って白人を優先させなければならなかった。

 ある日、仕事の帰りで疲れていた黒人女性ローザ・パークスは、うとうと眠くなって立ちたくないので、白人に席を譲るのを拒否した。これは州の法律違反だったが、キング牧師たちはローザ・パークス支援の運動に立ち上がる。バスを使わず歩くバス・ボイコットや、白人席にも構わずどんどん座って、差別をなくしていこうと活動した。
 キング牧師と、彼が影響を受けたガンディーも語るように、非暴力主義とは「黙って従う」とか「なすがままに受け入れる」ことではなく、非暴力で果敢に悪法や悪政に抵抗していくことだった。

 番組を見て改めて思ったのだが、ガンディーやキング牧師が世界的に尊敬されている基準からすれば、「悪い法律はどんどん破っていい」ということだろうな。最近の元徴用工判決などで、日本では「条約が破られた」「無視された」という激しい怒りが渦巻いているが、違法だろうと白人席にどんどん座っていった「公民権運動の精神」でいえば、法律や条約はただちに守らなければいけないものではない。

 自民党政府は、愚直に、悪い具合に条約の枠組みを守っている。「千島」はサンフランシスコ平和条約で放棄されてしまったので、「択捉・国後は千島列島ではない」という(やや無理のある)理屈で返還を求めている。日本共産党は千島列島全島の返還を求めているが、「条約に縛られない」という筋を通して、「慰安婦」や徴用工への補償にも積極的だ。
 共産党に対しては、「善悪や人道の観点からはともかく、国益を損ねている」という戸惑いや批判も見られる。しかし、条約に縛られず慰安婦や徴用工に補償するからこそ、「千島全島が日本に返還されるべきだ」という主張が国際社会で説得力を持つと思う。