個性的かつスターぞろいの88年クラシック世代の中で、苦戦しながらG1を2勝したヤエノムテキ。
ヤエノが勝った皐月賞と天皇賞・秋、この二つは同じ東京2000mだったというだけじゃなくて、レースぶりも大変似ているんだ。
皐月賞では、1枠1番から好スタートを切ったのに、馬群に包まれまいと前に行くことはなく、あえて他の馬に行かせて馬群の内側でじっと待機し、4コーナー(最終コーナー)で前が開いたところを抜け出している。
天皇賞・秋もまた、(こんときは4枠7番だが)道中は焦らず馬群の内側にいて、4コーナーで内を突いた。
そういうコースロスの少ない位置取りと、消耗の少ない待機策で勝つというのは、とびぬけた実力がなく、騎手の戦略や展開がはまらないと勝てないことを示している。
ヤエノムテキは、無敵ではなかった。きわどい戦いの末、ようやく勝てる馬だった。だが、今もオグリキャップ世代を語る時、欠かせない名馬であり続けている。
皐月賞に勝ち、5歳の4月まで乗り続けたのが西浦勝一騎手で、その後、岡部幸雄騎手 に乗り替わって天皇賞・秋を勝ったというのも、皮肉な運命を感じる。
昔の騎手にうとくて、「西浦って誰?」というファンでも、「カツラギエースに乗って宝塚記念とジャパンカップを勝った騎手だよ」と言えば通じるんではないか。
ジャパンカップでは、ミスターシービーとシンボリルドルフという「史上初の三冠馬対決」(その後、牡馬クラシック三冠馬の現役が重なった例はない)にファンもマスコミも気を取られる中、10番人気というノーマークを活かす逃げ切り勝ちで、二頭の三冠馬と並みいる外国馬に一泡吹かせた。
しかし、シンボリルドルフという馬とルドルフ陣営は、同じ相手に再び負けることを「絶対」に許さなかった。次戦、有馬記念ではカツラギエースを完ぺきに抑えて勝利している。
西浦氏から乗り替わり、ヤエノを「感動の復活」に導いたのが、そのルドルフの主戦騎手・岡部幸雄氏なのだ。
結局西浦氏は、ヤエノムテキの皐月賞を騎手時代最後のG1勝ちとして、1996年に引退――調教師に転身した。
余談だけれど、調教師としてはカワカミプリンセス、テイエムオーシャン、ダートの最強馬論争で名前の上がるホッコータルマエ、タマモクロス産駒で重賞5勝を挙げたマイソールサウンドなど、多彩な名馬を育て上げて、2021年に引退している。
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