競馬語りをウマ娘のガチャ発表に依存しがちなので、そこから離れて競馬史を振り返る雑感。
といっても、最近ミスターシービー(ウマ娘)が育成イベントに出てきたことで思い立った。
1980~90年代というのは、日本競馬「狂騒の時代」だった、と思う。経済的絶頂に達した1920年代のアメリカが、「狂騒の時代」と呼ばれたように、この時期の日本もまた異常に騒がしかった。
はじまりは「シンザンを超えろ」(JRAの公式キャッチコピー、1979年)
1970年代末に、JRAが「世界に通用する馬づくり」を提唱し、競馬界の公式に「進化論」が持ち込まれたといえる。後の馬は前の馬より強くなければならず、遠い未来の目標としては、海外の大レースを勝つことにあった。
1981年からジャパンカップが始まり、一般の競馬ファンも、「日本馬が外国馬に勝てるかどうか」を強く意識するようになった。
ミスターシービーとシンボリルドルフという、タイプの全く異なる二頭の三冠馬、史上初の三冠馬対決に沸いたのもつかの間、日本の競馬ファンは、タマモクロスとオグリキャップを通じて「芦毛の名馬」といった多種多様な名馬を目にする。
バブル経済と競馬ブームが重なり、経済史的には85年プラザ合意以降の円高もあり、とにかく日本円が強くなっていた。
一方、アメリカではノーザンダンサー系の世界的成功によって刺激された競走馬への投資バブルが、サンデーサイレンスの時代にはハッキリと冷え込んでいた。経済全体でいっても、昇り調子の日本に対し、欧米は停滞していた。
そこで日本の馬主と生産者は、ここぞとばかりに海外の名馬を買いあさり、その中にあの有名なサンデーサイレンスがいた。
アメリカの生産界でサンデーサイレンスが不人気だった理由として、母系の血統が無名だったことはよく指摘されている。が、それはあくまで理由の一つだろう。
10年前にはアウェーに遠征してきた外国馬にヒーヒー言っていた日本が、サンデーサイレンスのような超の付く名馬を購入できたのは、歴史的な背景なくして考えられない。
運命の歳月
そして次の10年、90年代に日本競馬はさらにレベルアップする。
しかし「影」の側面としては、馬の故障がとても多かった。思い出と年表を頼りにたどっていくと、躁鬱のジェットコースターに乗せられる。
87年にサクラスターオーが感動の復活を果たし、有馬記念で故障発生し、翌88年に落命した「鬱」があれば、タマモクロスとオグリキャップの登場に沸いて、「躁」に転じた。
94年にナリタブライアンによって10年ぶりの三冠ホース誕生に沸けば、95年にライスシャワーの予後不良と死があり、97年にホクトベガの海外遠征と死があり、98年にシーキングザパールの日本(調教)馬初の国際G1制覇と、翌週タイキシャトルによって伝統ある国際G1ジャック・ル・マロワ賞の制覇があり、サイレンススズカの予後不良と死があり、99年に最強世代の名勝負とエルコンドルパサーの凱旋門賞2着があり…。
今でも馬の故障は絶えず、時には落命もあるが、統計を見れば故障は確実に減っている。
理由としては、コースの整備技術が上がったとか、馬の脚に負担をかけないトレーニング施設と調教技術が充実したとか、いろいろ言われている。(元騎手で調教助手の谷中公一氏は、それと共に食事の改善を挙げている。「ファンが知るべき競馬の仕組み」223~225ページ)
要するに、日本競馬のレベルが上がったということである。
参考文献
すぐ見れるものとしては、これも。
無事是名馬
80~90年代を、「競馬が一番面白かった時代」という(年長)ファンは多い。
私も競馬を覚え始めた頃であるから、思い入れが深いけれど、それをカッコに入れて虚心に見れば、名馬の故障が(皮肉にも)ドラマ性を高めていたのではないか。
90年代までは、まず三冠レースを順調に走ることが大変であって、トウカイテイオーの故障と菊花賞断念はご存知の通り。
シービーがシンザン以来の三冠馬に輝くまで、19年間もあったが、その19年間にも取れそうな名馬がいた。
最後の一冠・菊花賞を、のど鳴りの発症で惨敗したタニノムーティエ(70年)、屈腱炎で回避したカブラヤオー(75年)がおり、また、皐月賞と菊花賞を勝ったキタノカチドキが、ダービーだけ痛恨の3着に敗れたケースがある(74年。皐月賞が厩務員ストライキによって、予定より3週間遅れになって調整が狂ったのが原因とされており、時代を感じさせる)。
それだけに、三冠レースをすべて勝つのは稀な偉業だった。
今、現役の三冠牡馬でコントレイルがいるけど、「最弱の三冠馬」という人もいる。まだ出走予定のレースがあるのに、気が早すぎる。まぁコントレイルは置いといても、時代の流れで遅かれ早かれ「弱い三冠馬」が出てくる。
古参というやつは、「今の××はつまらない」といいがちだ。私はウマ娘ブームとブームに便乗したいというスケベ心がなければ、競馬熱が再燃していなかったので偉そうなことは言えないが、故障が少なくなった今の競馬、悪いもんじゃない。
補足
特にキタノカチドキの場合、皐月賞を勝った時は7戦7勝の無敗で、ダービー3着の後に神戸新聞杯から菊花賞まで三連勝で二冠を達成したため、ダービーを勝っていたら史上初の無敗三冠馬誕生になっていた。(初記録達成は、84年のシンボリルドルフ)
現在、牡牝混合のクラシック三冠を無敗で勝った馬は、シンボリルドルフ、ディープインパクト、コントレイルの三頭だけである。