一部のまとめサイトとツイッタラーが、「日本学術会議は中国の軍事研究に加担している!」「千人計画!」と勢いづいているが、そもそも加藤官房長官は、「総合的俯瞰的観点から活動して頂くということで…」などと、ホワホワの官僚答弁しかしていない。
軍事研究への加担が問題なら、「加担しているからだ」と、官房長官なり、菅義偉総理がそういえばいいじゃない。
そしてまた、加藤陽子氏ら任命拒否された6人の研究者が、どこでどう中国の軍事研究に加担しているのか、具体的な経歴を指し示さなければならない。違法の可能性もある慣例破りをした以上、説明責任は菅内閣にある。
「反日だから」「左翼だったから」というツイート群は、「共謀罪、安保法制に反対していた」という一覧表しか見てなさそう。
私は加藤陽子氏の「戦争の日本近現代史」や「満州事変から日中戦争へ」を読んだことがあるけど、左翼がよく強調する日本軍の残虐行為に対しては、関心の薄い人という印象。
単純にそれは専門外のようだし、それがため、加藤氏に冷淡な左翼も多かった。
たとえば、「満州事変から日中戦争へ」では、南京事件(南京大虐殺)への言及も一応ある(語らないで済ませられない)が、小見出しは「南京戦」で、非常にサッパリした記述だった。
ちなみに、中国との共同研究自体は、第一次安倍政権の時に決まった日中歴史共同研究とか色々あるんで、それ自体は左翼的も右翼的もない。中国と共同研究することが中国への加担なら、安倍総理が左翼だったことになる…。
追記。
ふっと思い出したんで、足しておくけれど、加藤陽子氏が「左翼ではない」という証拠として、日露戦争の記述が分かりやすいと思う。
「マーク・ピーティは、近代植民地帝国のなかで、日本ほどはっきりと戦略的思考に導かれ、また当局者の間にこれほど慎重な考察と広範な見解の一致が見られた例はないと述べていますが、たしかに日露戦争をいつ始めるかという決定は、(…)周到になされていたことがわかります」(「戦争の日本近現代史」157ページ。)
実をいうと「満州事変から日中戦争へ」は今持ってないので、記憶で書いているが、こっちは持っているのでページが記せる。
これをたとえば、「満州事変から日中戦争へ」と同じ「シリーズ日本近現代史」の3巻であり、岩波らしい突き放した帝国主義批判を行っている原田敬一「日清・日露戦争」の記述と比べてみよう。
「日露戦争は、両国にとって戦わなくてもよい戦争であった。」(208ページ)。
「(…)戦争前の短期的戦略構想は、未曽有の戦争展開によって微塵にうち砕かれ、講和にも持ち込めない状況に追い込まれていたのが、(…)事態を動かしたのは、5月の日本海海戦だった。」(219ページ)。
原田本からだと、戦争が始まったのも、勝利できたのも、割と偶発的だった印象を受けるのではないか。
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