馬と鹿と野と郎

「世人は欺かれることを欲す」(ペトロニウス)

靖国参拝に対する中国・韓国の批判は、正しいかどうか。また、国内法で戦犯は免責できるのか。

inunohibi.hatenablog.com

 まぁなんかもう、政教分離のことは気にされなくなってる。政教分離が後景に退いた代わりに、、この10年余りずっと議論対象になっているのは、韓国・中国(相手にされてないけど、北朝鮮も)からの批判だ。これはどうでしょうか。

 
 朝鮮半島は、日本と法的な戦争状態に入ったことはない(日本の多数派見解。韓国は認めていない)。日本が併合(植民地化)する過程で、しばしば朝鮮人武装蜂起し、日本軍が鎮圧したことはよく知られている。

 その「暴徒討伐」(当時の表記)や「暴徒鎮圧」(同)に伴う日本軍の戦没者も、やはり靖国に祭られている。(高橋哲哉靖国問題」の第2章、91~93ページ)
 そして先にも述べた、日本軍で戦った朝鮮人が勝手に祭られている問題。A級戦犯朝鮮半島と特別関係するわけではないものの、「東条英機と一緒に祭られるのは嫌だ」といわれたら、否定しようがない。
 中国との関係でいえば、やはり中国ら第二次大戦の連合国が行った戦犯裁判で有罪になった被告が祭られていてることに、国際関係上の信義違反があるといえる。

 中国大陸の共産党政府は、戦犯裁判を受諾したサンフランシスコ平和条約に調印していないが、日本と戦った中華民国政府の正統な後継と多くの国に認められているので、「条約に調印していない」というだけで批判を認めないのは無理がある。(三土修平「頭を冷やすための靖国論」の第7章、205~206ページ)

 
 GHQの占領が終わった後、日本の国内法で戦犯は「犯罪者」ではなくなった。野田佳彦元首相も、野党議員の時にそのような法理論で参拝を正当化していた。
 ところが、条約法27条は、「当事国は、条約の不履行を正当化する根拠として自国の国内法を援用することができない」と定めている。
 どういうことかというと、最近でも韓国の最高裁にあたる大法院が、元徴用工への賠償を認める判決をした。アンケートを見れば多くの日本人が「認めない」「国際法違反だ」という日本政府の方針を支持している。
 国際条約で決まったことを国内の司法で左右するな、という法見解は間違っていない。(だからやっぱり、法的な決着をつけるなら国際司法裁判所にゆだねる必要があるだろう。)
 大沼保昭国際法」(ちくま新書)は、3章の2の3で国内法と国際条約(国際法)の関係を論じている。
 大沼氏によれば、「日本をふくめて各国の裁判所は一般に国内的な観点を優越させており」日本と韓国の「慰安婦」をめぐる外交交渉も、「象を針の穴に通すほど困難」と悲観的である。(韓国政治が専門の木村幹氏も、政府間対話に希望はなく、国際司法裁しかないとする。)
 連合国の対日戦犯裁判もこれと同じで、国際法上すでに正式な裁判として認められているので、日本の国内法だけでひっくり返すことは、不可能に近い。

 
 まぁ今では中国の方が国際司法裁の判決を受け入れない(フィリピンとの領有権争いで敗訴)という自爆外交で、中国からの批判に政治的危険性はなくなったようだが…。

 

頭を冷やすための靖国論 (ちくま新書)

頭を冷やすための靖国論 (ちくま新書)

 

 

 

国際法 (ちくま新書)

国際法 (ちくま新書)

 

 

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