すでに原作漫画を読んでいるので、ふだんは見てないんだけど、ここだけは解説しておきたい。(ちょいネタバレ注意。)
アシェラッドはトルフィンに、「高度な文明だった。今よりもずっと」「人間の世界は緩やかに、だが確実に老いてきている」と語った。(この語りには、年を取ったアシェラッドの重要な心境も含まれているのだが、まぁその話はのちのお楽しみ。)
古代ギリシャやローマの時代、西洋人は優れた自然科学・技術を持っていたが、ゲルマン人によってローマ帝国が滅ぼされ、貴重な技術や知識が、ほとんど途絶えてしまったらしい。
ローマの街を通っていた水道の橋が、中世時代になると由来が分からなくなり、「悪魔が作ったのではないか」などと疑われた、というエピソードは有名である。
長らく中世ヨーロッパは、ギリシャ・ローマの黄金時代から、宗教的迷信によって停滞した「暗黒時代」とされてきた。現在の歴史学では、決してそうは見ていない。むしろ、荒野だったヨーロッパじゅうの土地が隅々まで開発されたのは、この時代になってからという。
ただし、それがかえって自然の奥に眠っていた病原菌を目覚めさせ、ペストなどの流行につながった。こういった暗い出来事は、当時の人に「世界の終末が近い」という世界観を、十分なリアリティーをもって伝えただろう。
「ヴィンランド・サガ」は、歴史の背景に流れる力の物語でもある。
追記。
池内了「知識ゼロからの科学史入門」によると、過激なキリスト教徒が図書館と所蔵文書を破壊し尽くした例もある(32ページ)。池内氏は、ローマ帝国で公認されたキリスト教が、科学的探究心をなえさせたと解説している。
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