馬と鹿と野と郎

「世人は欺かれることを欲す」(ペトロニウス)

どういう人が憲兵になったのか。

 憲兵についての研究書は読んでないが、私が持っている本の中では、朝日新聞山形支局「ある憲兵の記録」がある。これは旧満州国の元関東軍憲兵だったT氏の話を、新聞記者がまとめたもので、憲兵特高警察に捕まった人の話は時々聞くけれども、「捕まえていた側」の証言は珍しい気がする。

 どういう人が憲兵になったのだろうか。憲兵の仕事が面白そうだとか、使命感に燃えるというよりも、「後方勤務だから戦場で命を落とす危険が少ない」という計算ではないか、とT氏は想像している(朝日文庫版、70~71ページ)。
 73~76ページには、憲兵の仕事について簡単な解説が載っている。81~87ページをはじめ、T氏自身も加担することになった拷問の描写は、迫真性に富む。

 (同書では元憲兵の本名が出てくるが、本多勝一氏が支持する見解のように、彼らは間違った軍国主義教育の犠牲者でもあるので、イニシャルにしておく。戦後、T氏は撫順戦犯管理所で認罪教育を受けていたので、「ああ、洗脳されたのか」という“例の反応”がありそうだ。
 旧日本軍の場合、戦後には元兵士でつくる戦友会などが地域の相互扶助組織として機能する一方、「戦場での加害行為を語ってはいけない」という同調圧力をかけ続けた。中国帰還者連絡会は、そういった圧力がない例外的な団体になったが、それらの証言をも否定すれば、そりゃあ「証拠はない。白」になるだろう。なんでも。)

 

聞き書き ある憲兵の記録 (朝日文庫)

聞き書き ある憲兵の記録 (朝日文庫)