馬と鹿と野と郎の日記

「世人は欺かれることを欲す」(ペトロニウス)

「世界歴史大系 朝鮮史 1」の簡単な感想と、ゾンビ的な「停滞史観」について。

 すでに返したんだけれども、宮嶋博史その他編「世界歴史大系 朝鮮史 1」を借りていた。「借りても全部読めないよ~」といっていたら、「必要なところだけ調べて、コピーすればいいんじゃない」といわれたので、そうしたのだった。
 「高麗時代に生まれた世界初とされる金属活字の技術」といったいくつかの点をメモにして、調べてみたが、結論だけ言うと期待していたものとは違った。これは、「客観的で信頼できる通史」を目指す、というスタンスによるものだろうか。
 たとえば、李氏朝鮮中興の祖といわれる名君・英祖(今では世宗の方が評価が高いけれど)。彼は息子・思悼世子の素行の悪さと、謀反の疑いに心を痛め、米びつに閉じ込めて餓死させる、という衝撃的事件に至った。
 一般的に思悼世子の悲劇は、党争と呼ばれるこの時代特有の派閥争いに巻き込まれたためとされているが、なぜ英祖が殺す必要まであったのか、謎は多い。それについては後世の様々な憶測を掻き立てるので、韓流時代劇などでは理由も経過も様々に描かれている。
 しかし「朝鮮史 1」の場合、客観的な資料が少ないのか、ただ「米びつに閉じ込められて死んだ」と短く記されている。
 とはいえ「朝鮮史 1」の使いようは、それだけではない。巻末の参考文献、たとえば1章(三国時代新羅で1章、高麗で1章くらいのペース)につき、50以上の文献があげられている。多すぎて目を通すだけでも大変だが、本が多すぎる朝鮮史に関して言えば、「50くらいに絞り込まれている」ともいえる。

 ところで、世界初だとか後だとか、化学が最先端なのかちょっと遅れていたのか、そんなにムキになることもないのだが、こと朝鮮史に関しては、「朝鮮はずっと停滞の歴史だった」とか、そこまでひどくなくても、「李氏朝鮮の時代は停滞していた」という俗っぽい認識が根強い。
 正統な歴史学が駆逐していったはずが、この15年くらいの嫌韓ブームで、カス本乱発によって改めて刷り込まれてしまった。
 ぶっちゃけ今の北朝鮮が偏屈な独裁国家になっていることと、朝鮮半島の歴史は直接関係ない。それは逆説的ではあるが、誰もが「古代には優れた文化を持っていたのに・・・」と認める中国やギリシャにも言えることだ。
 では、中世から近世まで科学技術の最先端だった中国や朝鮮半島が、その後の歴史でなぜ欧米に出し抜かれてしまったのか。誰でも素朴に抱えるであろう疑問だが、テーマが大きすぎるせいか、正面から挑む歴史家は少ない。特に、専門が高度に分化してしまった現在の歴史学では。
 私が知る範囲内で、最も読みやすくて説得力ある説明としては、(ウィリアム・H・)マクニール「戦争の世界史 上」における、第二章「中国優位の時代 1000~1500」が参考になる。

 戦争の世界史(上)|文庫|中央公論新社

 

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