馬と鹿と野と郎

「世人は欺かれることを欲す」(ペトロニウス)

図書館で借りた本、メモ。橋本雄「NHKさかのぼり日本史 外交篇 7」

 縄文時代から始まり、奈良とか平安とか…、という通常の歴史書と異なり、昭和、明治、江戸・・・、と時代をさかのぼっていくシリーズ。その形態の意義はわからないのだが、室町時代を扱ったこの巻は興味深い。
 足利義満が、中国・明王朝から「日本国王」に封じられたことを、従来の説を紹介しながら詳しく検討している。著者によれば、義満が皇位を乗っ取るつもりだったという「簒奪説」は否定されつつあるので、「日本国王」の称号にも政治的意味はなく、単に明との貿易目的だったというシンプルな説に収れんさせている。
 中国への朝貢といっても、中国皇帝の方が気前よく下賜(お返しの)品を与えるのが慣例だから、義満はしたたかに「名を捨てて実を取った」のだ。
 戦前の皇国史観のように、中国へ臣従した義満を非難しなくても、この事実をどのように考えればよいのか、日本人にとってはおさまりが悪いだろう。何しろ、聖徳太子の「日出る処の天子」から日本は中国と対等な国になったという歴史認識は強固である。
近年では聖徳太子の業績が大幅に疑問視されているせいか、シリーズ同じ「さかのぼり日本史 外交篇」の「10」では、「日出る処の天子」は出てこない。
 著者は序文やおわりで、「現代の日本にも、東アジア情勢の変動期だった室町時代の外交は、参考になるだろう」的な事を言う。義満は「日本国王」号を好ましく思わない朝廷人に配慮して、明からの使節にも、近しい人物だけで内内に対応した。
 まぁなんだかんだ言って、義満という専制君主個人の有能さで、当時の外交は何とかなっただろう。情報化、民主主義の現代の方が、「名を捨てて実を取る」のは難しく見えるのが、なんとも。

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