先日インドネシア語の話をしたので、アジアの言語事情について語ってみよう。
イギリスやアメリカの植民地だったフィリピン、マレーシアやインド等では、英語が公用語または準公用語として、今でもよく使われているの対し、オランダの旧植民地インドネシアでは、オランダ語が話せる人は(一般的には)いなくなったようだ。
英語版ウィキペディアでは、その辺の事情を「オランダの原住民教育が、一部のエリートに限られて、インドネシア人に広く普及しなかったから」とされている。が、私が考えるに、オランダ語が国際的に広く通用しないから、人気がなかった、というさみしい事情もあるかもしれない。
例として、日本統治下の台湾や朝鮮半島では、「日本人意識」を植え付けるため日本語教育に力を入れたが、日本語が独立後にも定着することはなかった。
とはいえ、インドネシア語でも、文字は西洋との接触によってもたらされたアルファベットを使っている。ヴェトナムでは、昔、漢字をもとに現地語を表記するチューノムという文字があったが、難しすぎて普及しないうちにアルファベットにとってかわられた。(今井昭夫「現代ベトナムを知るための60章 第2版」の第10章)
日本もイギリスかアメリカの植民地になっていれば、「DOG」に「いぬ」という日本語を当てて表記するようになったかも、という想像が語られることもある。
戦後、GHQの主導した国語改革では、覚えるのに時間がかかる漢字は廃止して、すべてローマ字で表記すればいい、という物騒な提案があった。
もっとも、それが本気で実施されることになっても、不便すぎて成功することはなかっただろう。日本語は同音異義語が多すぎて、ひらがなとカタカタだけですらすらと理解することはできない。発音の上がり下がりも表記できない。
たとえば「漢字」と「幹事」の発音が違うのは、日本語ネイティブには当然のことだが、ひらがなで書くと同じ「かんじ」なわけで、非ネイティブには結構難しいらしい。(「ダーリンは外国人」のトニーさんとか)
小倉紀蔵「嫌韓問題の解き方」(第1章の3)によると、韓国では漢字がすたれつつあり、ハングル表記が一般的になっている。同音異義語にかっことじ(これのこと)で漢字を挿入するくらい、らしい。
日本語だと100足らずの音節であるのに対し、朝鮮語の場合、音節は1万近くある。ハングルは基本24字しかないが、母音と子音の組み合わせでその複雑な音節を表記できるようになっている。(宮嶋博史「世界の歴史12 明清と李朝の時代」の1「李朝の建国」を参照。)
たまにハングルのことを、「日本語でいえば平仮名だけで書いている」といっている人がいるが、そんな類推が当てはまらないことが、これだけでもわかるだろう。言語は奥が深い。雑な類推を許さない。
※英語版ウィペディアのDutch East Indies
https://en.wikipedia.org/wiki/Dutch_East_Indies
(といっても私は、グーグル翻訳を読んだだけ)
その他参考。
ソースを追記。
1911年に公布された「朝鮮教育令」(朝鮮人の教育について定めた勅令)では、第五条で「普通教育は・・・特に国民たるの性格を涵養し、国語を普及することを目的とす」とある。(武田幸男編「新版世界各国史2 朝鮮史」、279~280ページ)