馬と鹿と野と郎

「世人は欺かれることを欲す」(ペトロニウス)

スキャンダルを使った反対者つぶし。安倍政権と「ナチスの手口」。

https://mainichi.jp/articles/20180227/ddm/004/070/005000c

 27日付の毎日新聞「時論フォーラム」では、安倍政権の5年間が分析されていた。今の日本では、好景気に自殺者数の減少と、安倍政権が支持される明るい材料がそろっている。一方で森健氏は、「薄気味悪いこともある。政権の意向に沿わなかった人がひどい目にあってきたことだ」として、政権に批判的だった文科省の前川喜平氏がスキャンダルを大手紙に報じられたり(官邸のリークが疑われている)、森友学園の籠池元理事長は、接見が禁止され、保釈請求も却下されて長期間拘留されている。
 森友がらみでも、政府官邸と自民党のちょうちん持ちは、要するに「籠池夫妻が変な奴らだ」という印象操作をして、トカゲのしっぽ切りに躍起になっている。
 敵対勢力をスキャンダルで蹴落とし、自分たちを正当化するやり方は、実は麻生太郎氏がいつぞや物議をかもした発言、「ナチスの手口」そのものだったりする。
 ヒトラー政権初期の出来事だが、言動が過激で評判の悪かった突撃隊幹部のレームは、ナチ党が持て余すようになったのでとうとう粛清されてしまった。無法な殺害の後にヒトラー達は、同性愛者だったレームの「ぞっとするおぞましい性癖」をスキャンダルとして強調し、国民も粛清を支持した。
 次には、第二次世界大戦に至る3年前の1937年、ヒトラーが、戦争も辞さずにオーストリアチェコスロバキアの領土を併合する計画を秘密会議で披露した。国防軍出身でヒトラーに協力していたブロンベルク国防相とフリッチュ陸軍総司令官は、無謀な方針に驚いて、強く異議を唱えた。しかし、ブロンベルクはナチ党から再婚スキャンダルをあげつらわれ、フリッチュは「男色」のスキャンダルをねつ造されて解任された。
 これがドイツの運命を決定づけた、レーム事件とブロンベルク・フリッチュ事件である。ちなみに、この両事件はヒムラーゲーリング、ハイドリヒが中心になって立案し、実行したのだが、ナチ党内でナンバー2や3にあたる彼らが、ヒトラーの権力のもと重要な決定を下していく構図は、のちのユダヤ人絶滅政策にも継承されていく。

 (参考文献の中で読みやすいものとして、石田勇治「ヒトラーとナチ・ドイツ」、芝健介「ホロコースト」、朝日新聞社「100人の20世紀」をあげる。)

 
 私は何も、「歴史は繰り返す」とか、「安倍首相はやがてヒトラーとしての本性をむき出しにするだろう」といいたいのではない。それでも、日本の人権状況が自民党・安倍政権下で悪化する懸念はあり、それが誰の目にも明らかになってから警告しても、遅いのだ。
 マキャベリの「君主論」にいう。
 「この事情は、医者が結核についていうことと同じである。つまり病気の初期においては、治療することはたやすいが、見つけることは難しい。ところが、その病気が初期において見つけられず、それゆえ治療もされていなければ、時が経つとともに、それは、見つけることはたやすいが、治療が難しいものに変わる」(竹森俊平「世界デフレは三度来る」554ページから孫引き。)

  ※ハイドリヒについては、こちらの記事が参考になる。

『ハイドリヒを撃て!』…英雄譚は何故つくられるか? | ドイツ情報満載 − Young Germany Japan by ドイツ大使館