終戦記念日までの数日間、NHKスペシャルでは、731部隊とインパール作戦の特集をやっていた。この二つに対する反応の違いは、予想通りだったけれど、興味深い。
日本軍の戦争犯罪については、「善良な日本人がそんなことをするはずがない」という雑な否定論が存在する。理論的な根拠はなくても、「そんなことをするはずがない」というぼんやりとした感覚は、バカにできないものがある。生活感覚の裏付けを欠いた、インテリによる「理論だけの日本帝国主義の暴虐さ」というのも、それはそれで困りもの。
「善良」などという思い込みを外しても、今の日本で731部隊の生体解剖、人体実験のような非道が起こることは、想像できない。(それでも、731部隊の闇は戦後史に底流として存在し、帝銀事件のような関係を疑われる事件があるし、元731部隊の人間が創設したミドリ十字による、薬害エイズ事件につながっている。)
しかしインパール作戦は、「今でもいるよね、こういうダメ上司」という、日本人の経験的な直観に照らし合わせて受容される。むしろこの件では、「善良な日本人」だからこそ、「アジアの解放」といった美名に目がくらみ、無理や無茶を精神論で押し通そうとする構図が、痛々しさをもって理解される。
追記。
731部隊については、青木冨貴子「731 石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く」(新潮文庫)が、現在入手できる本の中で特に詳しいと思う。値段も安い。(アマゾンをチェックしてみたら、品薄のようだが…。) 新潮だから右翼的ということはなく、むしろこれは、左翼的な本かもしれない。
生体解剖、人体実験の疑惑が、「森村誠一という左翼のねつ造、よた話」というのは、矮小化に過ぎない。同書でハバロフスク裁判の証言を採用しているのは、疑問に感じるところだが(一般論として、旧ソ連では、過酷な自白強要とえん罪が後を絶たなかった)、それ以外の裏付けもある程度存在する。
731部隊の関係者は、人体実験のデータをアメリカ政府に提供することで、戦犯として起訴されることを逃れた。たとえば、それに対するエドウィン・ヒル博士の報告書「ヒル・リポート」には、こうある。
「今回の調査で集められた事実は、この分野におけるこれまでの見通しを大いに補い、また補強するものである。このデータは日本人科学者たちが巨額な費用と長い年月をかけて入手したものであり、人間への感染に必要な各細菌の量に関する情報である。こうした情報は、人体実験に対するためらいがあるわれわれの研究室では、入手できない」(438ページ)
- 作者: 青木冨貴子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/01/29
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