https://mainichi.jp/sunday/articles/20170530/org/00m/010/002000d
テロ等準備罪、いわゆる共謀罪が国会で採択された。安倍政権は「一般人は対象にならない」と繰り返し答弁し、反対派を見下す者たちは、「極左テロリストが反対しているだけ」という。
誤解を恐れずに言えば、それはまぁその通りだ。
ドイツの法学者カール・シュミットは、ナチ時代を回想して、「内面の自由はあった」と弁明した。ヒトラーが政権に就くと、積極的にナチスの御用学者になったシュミットだが、単なる嘘やいいわけではないだろう。
ナチ時代の聞き書き、ミルトン・マイヤー「彼らは自由だと思っていた」は、表題通り多くのドイツ市民が、自分たちは自由に判断してヒトラー政権を受け入れ、自分の意志で暮らしていた、という感覚を記す。そのなかで、共産主義者などの「極左過激派」だけが、選別的に弾圧され、不自由だった。
「一般人は対象にならない」という程度の説明で納得しているみんなは、ファシズムのお勉強でもしましょう。
それでも、ナチスのやったことならなんでも悪いと思わないし、極左を取り締まるのはやっぱりいいことだ、と思うニコニコ・まとめサイトの住民的な人がいるだろう。そういう考え方の違いはどうしようもないが、例えば表現の自由を擁護するものが好んで引用する、ニーメラーの警句やヴォルテールの言葉が意味を持つのは、こういう場面である。
まだ「ずるがしこく極左を選んで取り締まっている」段階で声を上げなければ、やがて他の市民や、自分たちも弾圧されていく、というのがニーメラーの言いたかったことではないか。
ロリコン向けエロマンガの規制に反対する人は、「これを放置・黙認していれば、やがて表現の自由全体が抑圧される」というドミノ理論を唱える人もいる。しかし、現にロリコン漫画の規制が進んでいる欧米では、多くの市民が表現の自由を享受していると思っている。
今の日本でも、きっとロリコン漫画だけが取り締まられ、別にロリコンでもない多くの表現者と読者は、快適かつ自由に過ごすことになるだろう。それこそがロリコンにとってエロ漫画規制の厄介なところであるのだが、どうもわかっておらず、ただ表現規制を「馬鹿丸出し」と2ちゃんねるやツイッターで冷笑、見下している奴の多いこと。それじゃダメですよ。
共謀罪をすんなり通した今の日本も、このままではロリコン漫画の規制に歯止めをかけるものは何もない。「ロリコン漫画が性犯罪につながっている」という統計的、あるいは科学的な根拠は何もないが、はたして共謀罪がそんなに慎重な議論で採決されたのか。
共謀罪反対派を見下すものは、「集団安保法制が採決されても、日本は戦争にならなかった」という。「マタハジマッタヨ」というわけだ。ニーメラーの警句と、オオカミ少年は紙一重である。
では、ロリコン漫画が規制されても、なおのこと「なにも危険なことはない」。
何が笑うべきドミノ理論で、誰がオオカミ少年で、どれがニーメラーの言葉が当てはまるのか。それは結局、本人のイデオロギーだけが決めている。
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