馬と鹿と野と郎

「世人は欺かれることを欲す」(ペトロニウス)

世界遺産をめぐって、自縄自縛に陥った日本政府。

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 日本政府は、南京事件の裁判資料がユネスコの世界記憶遺産に登録されたことに腹を立て(特に、虐殺犠牲者を30万人と認定した南京軍事法廷の資料が問題視された)、関係国から異議があったら登録を見送る条項を盛り込ませたらしい。
 今回の件、見事に自縄自縛ですね。
 軍艦島の展示がこれから韓国に激しく批判された場合、世界遺産としての価値も落ちるだろう。観光資源にしたい地元住民と議員の狙いもパァに。

 
 軍艦島で差別があったのかどうか、私はそんな細かいことは知らない。しかしこういった証言は「木」であり、「木を見て森を見ず」にならないか気を付けよう。軍艦島に住んでいた日本人の証言…、という「点」だけではなく、朝鮮人戦時労務動員という政策全体の「面」を見なければいけない。
 戦時下の朝鮮人戦時労働動員(強制連行)については、日本近現代史が専門の外村大氏のホームページが、ウェブで読めるもっともまとまった概要になっている(無料)。

www.sumquick.com

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 今でも「森友の何が問題なのかわからない人」「検事長定年延長の何が問題なのかわからない人」がいるので、そもそも当時の日本人が、差別を差別だと認識できていなかった可能性があるんだよね。(というか、そっちの方が圧倒的に多い。高崎宗司「植民地朝鮮の日本人」を読むと、日本人が無自覚に差別をしていたと分かる。)
 欧米で、コロンブスリー将軍銅像が倒されているらしい。有色人種にとっては、コロンブスが「偉大な航海者」ではなく、「虐殺の先導者」ということだろう。当時のネイティブ・アメリカンもそう思っていたはずだ。
 「現在の価値観で過去を裁くな」というのも、せいぜい日本人の内輪で通用する議論に過ぎない。当時、朝鮮系の受け止め方はまた違っただろう。(さらに、日本人の中でも、民芸運動家・柳宗悦や、「山月記」で有名な作家・中島敦の朝鮮に対する見方は違っていた。)
 そもそも奴隷にされたり、強制労働させられる苦痛が、時代や地域の文化・価値観でそんなに変わるんだろうか。日本人は文化相対主義になられすぎていいか。ドイツの哲学者マルクス・ガブリエル氏は、「プーチンの主張は相対主義に基づいている」という興味深い分析をしている(「未来への大分岐」)。
 一つの国にいろんなルーツの子孫が暮らすようになった現在、「当時の価値観」というもっともらしい物言いの雑さと狭さ。もっと想像を広げよう

 

 

 

植民地朝鮮の日本人 (岩波新書 新赤版 (790))

植民地朝鮮の日本人 (岩波新書 新赤版 (790))

  • 作者:高崎 宗司
  • 発売日: 2002/05/20
  • メディア: 新書