馬と鹿と野と郎

「世人は欺かれることを欲す」(ペトロニウス)

表音文字がなかった中国、などの話。

 最近はすっかり時事評論に話題が偏っていたねぇ。ひさしぶりに、ちょっと言語の話でも。
 昼間に母が見ていたNHKハングル講座」を、たまたま弟Aも見ていた。弟Aは、ハングルの表記を「難しそうだ・・・」とつぶやいていた。弟Aはたしか、大学に入学したときも、第二外国語に中国語を選択していた。理由は「韓国語は文字が難しそう」だった。
 目論見が甘いな~。もしくは、勘違い。よくあるイメージなのかもしれない。あるとき、なんとなく立ち読みした韓国語の入門書にも、「あの暗号のような文字が、とっつきづらいかもしれませんが・・・」と前書きにあった。しかし、ハングルはアルファベットと同じ表音文字で、覚えればいい文字は基本24字だから、別に難しくはない。
(※ただし発音は難しい。非ネイティブにとって発音が難しいのは、英語だろうとフランス語だろうと一緒かもしれないけど。)
 日本語のひらがなとハングルには、発音記号を兼ねているという共通点もある。アルファベットのスペル(つづり)とは別に、発音記号が存在する英語とはここが違う。
 漢字という表意文字を使ってきた中国では、長く表音文字が存在しなかった。ネイティブは気にならないだろうが、非ネイティブには習得の上で大きな壁になる。(日本語でいえば、「漢字」と「幹事」では音の上がり下がりが違うけれど、日本語ネイティブは特に難しいとも思わず習得している。外国人にとっては、結構難しいらしい。)
 ブルース・カミングス「現代朝鮮の歴史」によると、19世紀にある西洋人が、中国語の発音をハングルで表記することを提案したが、当然これはうまくいかなかった。

 そんな中国でも、20世紀初頭に「注音符号」という、古代のテン書から取った表音記号が作られた。現在でも台湾(中華民国)では、これが使われている。対して、大陸中国では1948年に「ピンイン」というローマ字式の表音文字を採用し、これで漢字の読みや発音を覚えている。
 昔何かの雑誌で読んだきりで、ちゃんと覚えてないけれど、ローマ字を採用した背景には、「アルファベットになじんで、欧米の言語を習得しやすくする」という中国共産党の思惑があったらしい。もともと共産主義思想は、(ユダヤ系)ドイツ人のマルクスに基づいているわけだし、中華民国民国紀元(現在でも、台湾ではこれが使われている)に代わって西暦で統一したり、中国共産党には欧化志向があった。今となっては隔世の感がある。

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