馬と鹿と野と郎

「世人は欺かれることを欲す」(ペトロニウス)

得るものが世界でなくとも、失うものは鉄の鎖しかない。

 最近のテレビニュースで、「人手不足で企業の業績見通しが悪化」というのがあった。つまり、「人手不足で賃金上昇」→「企業の収支が悪くなる」というスパイラルが、経済界に懸念されているらしい。

 近年失業率が大いに改善されて、我々庶民や労働者にとってはいいことづくめだが、それは経営者にとって(のみ)頭が痛いようだ。

 問題は安倍政権の動きである。リフレ政策で景気を良くし、庶民の味方であるかのように振舞って成功しているが、本質は再三再四言ってきたように、経済界を支持基盤に持つ保守政党なのだ。最近の高度プロフェッショナル制度のごり押しぶりは、いよいよ安倍政権が牙をむいてきたということではないか。

 格差社会というのも、幾人かの論者が主張するように、格差そのものが直ちに悪い、とは言えないだろう。人間の才能や努力で、富に差がつくのは当たり前、といったアメリカ流の考え方もある。問題は、最近注目された橋本健二「新・日本の階級社会」等いくつかの本が指摘するように、格差が固定化されていることであり、貧しい家庭に生まれ育ったものが、未来への夢や希望を描けなくなっていることだ。

書評・最新書評 : 新・日本の階級社会 [著]橋本健二 - 諸富徹(京都大学教授・経済学) | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト

 統計的には、若年層ほど安倍政権の支持率が高いというのも、若者ほど「現状維持」以上の選択肢が思いつかないからではないか。一昔前は、資本主義に対する共産主義のように、種々雑多な政治思想があって、今の政治体制が絶対的なものではないという意識があった(はずだ)。
 今、欧米で、改めて社会主義極左政党に支持が広がっているというのも、歴史上の思想的ストックを見直したら、「資本主義以外もある」という当たり前の考え方に行きついたからだろう。それがうまくいくかどうかはわからんが、日本の若者は、自民党流の惰性的に続く資本主義体制しか知らないから、気の毒に見える。

「古くて新しい」お金と階級の話――そろそろ左派は〈経済〉を語ろう / ブレイディみかこ×松尾匡×北田暁大 | SYNODOS -シノドス-

 「今の資本主義が、絶対ではない」というと、何を青臭いことを、と思うかもしれない。しかし、戦時中に青年期を送ったいわゆる戦中派の思想家・橋川文三は、当時「日本の戦争状態はこれから百年は続くような気分」に支配されていたという。
 実のところ崩壊までいきつく体制を、永続する前提で「これしかない」と思い込んでいないだろうか。