馬と鹿と野と郎

「世人は欺かれることを欲す」(ペトロニウス)

流行言葉のつまらなさ。(本多勝一「日本語の作文技術」を参照して。)

 若者がちょっと背伸びして社会を論じてみたいときに、論じた気になれる借り物の言葉として、一昔前だったらマルクスとかサルトルがあった。今だったらそれが、ジェンダーフリーをもっともらしく斬るとか、「左翼の逆を行く」という逆張り思考が流行しているのだろう。
 中身のない流行だから、言葉も借り物ばかりで中身がない。本多勝一氏の「日本語の作文技術」では、「無神経な文章」の例として、「紋切型」をあげている(第八章)。ある投書欄の、「どうしてどうして」「そんじょそこらの」といった言い回しが、「ヘドの出そうな文章」とバッサリやられている。
 今だったら、ネットでよく見かける「パヨク」とか、語尾に「w」とか、「淫夢語録」とか、とにかくテンプレといわれる流行の定型文すべてだろう。書いてる本人と、近しいネット仲間だけが面白がっていて、見てる方はちっとも面白くない。
 いや、無料のSNSなら、駄文の実害はないし、本人たちが楽しければそれでいいかもしれない。しかしプロが商業作品でやるならば、「プライドはないのか」といいたくなる。さすがにネットでも、プロの作品で「ねらー用語」とか「淫夢語録」が使われていると、評価は下がる。

 ちなみに本多勝一「日本語の作文技術」は、小説以外で「読みやすい文章」とか「うまい文章」を書く上でポイントになることを、論理的かつ明快に解説した本。「句読点のうちかた」とか「段落」とか、文章初心者が「あれ、どうすればいいのか」と困ってしまうツボをおさえている。(私が書かれていることを実践できているかは、別物だが…。)
 小説というのは「小説を書こう」と思わなければ書くことはないが、ちょっと自分の意見を表明するために、文章を書きたいという場面はあるだろう。特にSNSの発達した現在においては、昔よりも「小説以外の文章技術」の需要は高まっている、と思う。

 (それにしても本多氏は容赦がない。「ダメな例」を、ジャーナリストとして自分が所属していた朝日新聞の記事や投書から拾って、ばっさばっさと血祭りにしてゆく。私もイデオロギー的に我慢ならない相手には、多少の罵詈雑言も出るが、ただの書き方で末代までたたられそうな批判はできない。)

 書誌情報

朝日新聞出版 最新刊行物:文庫:日本語の作文技術

 (アマゾンを見ると、新版が出ているらしい。私が持っているのは旧版。)

 追加。

1982年発売のロングセラー『日本語の作文技術』は戦略商品 | THE PAGE(ザ・ページ)

(文章の締めが被った・・・。)