馬と鹿と野と郎

「世人は欺かれることを欲す」(ペトロニウス)

外国の良い所を学ぶ姿勢を失ったら、危ないぞ。

 日本では、外国人労働者の受け入れに消極的だが、特に経営者や幹部として迎える姿勢に乏しい。また、数少ない外国人CEOによる成功例だと思われていた日産は、ゴーン氏の逮捕と海外逃亡もあって、シェア激減の悲惨な有様になっている。

 
 しかし、歴史をさかのぼれば、日本は外国人の知識や技術を積極的に取り入れて、発展してきた。明治時代には、北海道開拓にあたりクラーク博士が農学校で若者を指導し、法学者のボアソナードが顧問として招かれ、新しい各種法典が整備された。
第二次大戦後では、ソニーがオランダのPhilips社と共同開発でCDを発明した。
 だから、高額の報酬で外国人を引き抜きする必要はないと思うが、外国に学ぶ姿勢を無くしたら危うい。
 ネット上では、外国で何か人種差別や政治の迷走があるたびに、「外国に学ぶことはもうない」といわんばかりの逆張り欧米崇拝批判が始まる。
 確かに欧米がうまくいっているとは思わないが、欧米を笑っているだけのSNSの風潮はどうか。

 日本がダメではなくとも、欧米を見下す日本人、ダメなんでは…?

 

 (幕末~明治期に招かれた外国人、または自発的に来日した外国人の一覧。山川出版社「詳説日本史B」(2020年発行版)、311ページから転載。)

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どんな右翼でも、当時の日本を「基本的人権が尊重されている自由の国」とは思わないだろう。

www.nhk.or.jp

news.yahoo.co.jp

inunohibi.hatenablog.com

 先日のNHK映像の世紀 BSプレミアム 第16集」で、オリンピックと人種差別の歴史やってたでしょ。
 日本統治下の朝鮮半島出身で、日本人選手としてオリンピックに出場し、金メダルを取った孫基禎(ソン・ギジョン)選手。
 彼は日本に対して複雑な思いを抱いていたらしいが、番組中の当時記録されたインタビューでは、「日本人の誇りをもって~」と語っていた。
 まぁ、言わされてるんだろうなぁ。「本音」をいったら、きっとオリンピックの日本代表は取り消しだった。

 
 例えばこれが、今の先進国と当時の日本の違いだ。朝鮮人や台湾人には、差別に抗議する自由がなかった。あらかじめマイノリティーの口を封じた状態で「差別はなかった」といっても、全く説得力がない。

世界遺産をめぐって、自縄自縛に陥った日本政府。

this.kiji.is

 日本政府は、南京事件の裁判資料がユネスコの世界記憶遺産に登録されたことに腹を立て(特に、虐殺犠牲者を30万人と認定した南京軍事法廷の資料が問題視された)、関係国から異議があったら登録を見送る条項を盛り込ませたらしい。
 今回の件、見事に自縄自縛ですね。
 軍艦島の展示がこれから韓国に激しく批判された場合、世界遺産としての価値も落ちるだろう。観光資源にしたい地元住民と議員の狙いもパァに。

 
 軍艦島で差別があったのかどうか、私はそんな細かいことは知らない。しかしこういった証言は「木」であり、「木を見て森を見ず」にならないか気を付けよう。軍艦島に住んでいた日本人の証言…、という「点」だけではなく、朝鮮人戦時労務動員という政策全体の「面」を見なければいけない。
 戦時下の朝鮮人戦時労働動員(強制連行)については、日本近現代史が専門の外村大氏のホームページが、ウェブで読めるもっともまとまった概要になっている(無料)。

www.sumquick.com

www.sumquick.com

 

 今でも「森友の何が問題なのかわからない人」「検事長定年延長の何が問題なのかわからない人」がいるので、そもそも当時の日本人が、差別を差別だと認識できていなかった可能性があるんだよね。(というか、そっちの方が圧倒的に多い。高崎宗司「植民地朝鮮の日本人」を読むと、日本人が無自覚に差別をしていたと分かる。)
 欧米で、コロンブスリー将軍銅像が倒されているらしい。有色人種にとっては、コロンブスが「偉大な航海者」ではなく、「虐殺の先導者」ということだろう。当時のネイティブ・アメリカンもそう思っていたはずだ。
 「現在の価値観で過去を裁くな」というのも、せいぜい日本人の内輪で通用する議論に過ぎない。当時、朝鮮系の受け止め方はまた違っただろう。(さらに、日本人の中でも、民芸運動家・柳宗悦や、「山月記」で有名な作家・中島敦の朝鮮に対する見方は違っていた。)
 そもそも奴隷にされたり、強制労働させられる苦痛が、時代や地域の文化・価値観でそんなに変わるんだろうか。日本人は文化相対主義になられすぎていいか。ドイツの哲学者マルクス・ガブリエル氏は、「プーチンの主張は相対主義に基づいている」という興味深い分析をしている(「未来への大分岐」)。
 一つの国にいろんなルーツの子孫が暮らすようになった現在、「当時の価値観」というもっともらしい物言いの雑さと狭さ。もっと想像を広げよう

 

 

 

植民地朝鮮の日本人 (岩波新書 新赤版 (790))

植民地朝鮮の日本人 (岩波新書 新赤版 (790))

  • 作者:高崎 宗司
  • 発売日: 2002/05/20
  • メディア: 新書
 

 

石黒監督(OVA)版「銀河英雄伝説」。最後まで見たので、その感想。

 (※未見の人はネタバレ注意)
 ファンの間でいわれている「皆殺しの田中」について。終わり近くでアンネローゼや出産の近いヒルダの命が狙われ、あわや死ぬかと思ったが、大丈夫だった。
 結局死んだ主要キャラクターは、命のやり取りをする軍人や、陰謀を巡らせていた悪役ばかり。罪のないキャラクターを死なせなかったあたり、「皆殺し」といっても、非常に節度があったと思う。

 
 銀英伝でよく言われる批判(感想)に、「敵の司令官が無能すぎる」といったのがあったけれど、あれは「無能な支配者層によって腐敗している銀河帝国(または同盟)」という設定なんだから、有能さを見せたらダメでしょ。
 序盤(原作でいえば、2巻くらいまで)の間に、少なくとも銀河帝国側は「無能な貴族」が一掃されるので、以降は戦場シーンにも緊張感が出てくる。

 
 本多勝一氏は、「よくできた文章は精密機械と同じ」といった(「日本語の作文技術」)。私も見ていて色々と違和感を感じるシーンがあったけれど、銀英伝のように緻密に作り込まれた世界観やキャラクターを、他人が下手にいじくれば、機械のように故障(作品が破綻)するだろう。
 作者やファンが他人の批判を「じゃあ、お前が書けよ!」というのは禁じ手だが、確かに私に銀英伝ガンダムのような傑作は書けないので、批評も謙虚にならざるを得ないね。
 (たとえば、ロイエンタールが反乱を起こす流れは、強引だったような…。それで、「自分だったらどう書くか」と勝手な想像を巡らせてみたけれど、うまい修正プロットが浮かぶはずもなく。)

 
 ただやっぱり、石黒版は長すぎる。今作るんだったら、もっと短くした方がいい。その点で、ノイエ版は評価できる。